プロの鍼灸師は痛いところに鍼をしない(3)
この間、患者様からこんな物をいただきました。
患者様がネットでお灸を買ったところ、試供品として付いてきたそうなのです。患者様は封を開ける前に袋に書かれている説明書きを読んでみて、どうやらこの商品には鍼が付いているらしいことが分ったようなのですが、簡易的なものとは言え、一般(素人)の人が自分で鍼をしていいものかどうか、ちょっと疑問に思ったというので、私の所に持ってきてくれました。
この商品のように、細い鍼の頭がぴょこっと飛び出した鍼を皮内針(ひないしん)と言います。私は衛生上の問題もあって、皮内針を使用しませんが、プロの鍼灸師の間では普通に使われるものです。さらにこの商品は、酸化鉄粉末成型板というものを加えてより強力な効果を試みているようです。
私がこの商品を見て残念に思ったのは、パッケージの表に「かんたんなハリ治療 指で押してコリのあるところや最も痛むところ(圧痛点)にまず1つ、それに接近させて2~4個はってください」とあるところ。そしてその横にはそれがかわいい四コマ漫画で描かれているのですから、残念さが増してしまったのです。
私はこれを見て、「やっぱり痛いところに鍼をするって思っているんだ・・・」そして、「痛いところに鍼をするのが一番なんだと思っているんだ・・・」と、何となく世間が持っている鍼のイメージがこれほどまでに根深いんだと残念に思いました。医療器具を作っている方でもそうなんですからね・・・。
もし痛いところに鍼をして効果が出るのであれば、誰でも出来る。この商品が試供品として一般の家庭の方に送られてきたように、別に鍼灸師に頼まなくたって鍼治療が出来てしまう・・・。
いや、そうじゃないだろう・・・。
鍼は国家試験なんです。
有効なツボを見つける、身体を治すためのツボを見極める、そういうのがプロらしい仕事であって、痛いところに鍼をするだけなんて素人にも出来ること。それはプロとは言えない。
もう一つ問題は、この商品は鍼が付いているのですから医療器具になります。医療器具をそんな簡単に、試供品として送ってもいいのだろうか?場合によっては金属アレルギーを起したり、膿んだりしてしまうことだってあるし、厳密に言えば医療廃棄物として破棄しなければならないもの。試供品にするレベルのものではないだろう。試供品にするにせよ、より慎重にしなくてはいけません。
こういう誤解や安易さが鍼にはまとわりついてくる。
“鍼は誰でも簡単にできる”と思われているからなのでしょうか?
いや、そうではないだろう・・・。
鍼は国家試験なのですから。
鍼はプロの手仕事なのですから。