プロの鍼灸師は痛いところに鍼をしない(1)
結論からお話ししますと、私は痛いところ(患部)に鍼をしません。
例えば患者様が腰が痛いと訴えても、腰には鍼をしませんし、肘が痛いと言っても肘には鍼をしません。
痛いところ=患部に鍼をしないと、治療を受けにいらした方は訝(いぶか)しげな顔をされます。特に初めていらした方などは、口には出さないものの、内心では「何やってんだこの鍼灸師は!」と思っているかもしれません。それくらい、全然違うところに鍼をします。場合によっては、痛いところの逆側に鍼をすることがありますが、このときもきっと患者様は、「痛いのは左だよ左!なに右に鍼してるんだよ!」って思っているに違いありません。
私も駆け出しの頃は、そんな患者様の無言のプレッシャーに耐えられずに、患部に鍼を刺していたことがあります。
しかし、痛いところに鍼をしても効きません。
そして、患者様の体調や、鍼の刺激の強さによっては、逆に症状が悪化してしまうこともあるのです。
私は患者さんの身体を治すことが仕事です。
“身体を治す”、その一点に命をかけていますから、無意味なところには鍼をすることは出来ません。治るための根拠を求めて身体の仕組みを研究し、そして根拠のあるツボに鍼をすることこそが重要なのです。
ここでいう無意味なところとは、つまり患部となります。
では、どうして患部は無意味なのでしょうか?
それは、「患部はもうそこに力が残っていないからこそ、患部だから」なのです。症状が出ている痛いところは、元気がないから痛みが出ているのであって、そこに原因があるわけではありません。鍼灸の鍼の先に薬でも付いていれば話は別ですが、鍼灸の鍼はそんな薬などはありません。ツボの力を通して、患者様の自己治癒力を発揮する、これが鍼治療の醍醐味です。よって、「力が残っているツボを利用すること」、そしてそのツボがつながる経絡を作動させて、弱っている患部に元気を送ることこそが必要なのです。
逆に言えば、痛いところに鍼を刺すということには、何も根拠がないのです。根拠がないところに、とりあえず鍼をしてみても効くことはありません。
プロとしての自信と、プロとしての研究を重ねていればいるほど、痛いところに鍼をすることは避けなければならないのです。