プロの鍼灸師は痛いところに鍼をしない(4)
私はテニスのことは全くもって知りませんが、今年の錦織圭選手の活躍はすごかったですね。今年最後のATPツアー・ファイナルでの試合も、ラケットを持っている姿はまさに現代の若武者といった空気を感じました。上り坂にいる若い人の活躍と進歩はめざましいものがありますよね。
しかしいつも気になるのは怪我。錦織圭選手はものすごい動きをするために、身体にかかる負担も多いようです。今年も何試合かは怪我や疲労で結果が思わしくなかったようですが、スポーツニュースで、試合中に錦織圭選手が治療を受けているシーンが流れていました。
その姿を見て、私は驚きました。
何故かと言いますと、結局トレーナーがしている施術は、傷めている部位へのマッサージだけだったからです。錦織圭選手ほどの選手が依頼しているトレーナーですから、それは相当な腕の持ち主だと思うのですが、それでもやはりやっていることは患部への施術。私もマッサージの免許は持っており、はりきゅう専門になる前はマッサージの技術向上にも力を入れておりましたが、その目で見ても、やっていることは“普通”。恐らく、テレビや会場で錦織圭選手の治療風景を見ている方は、みなその姿を見て違和感を感じていないと思うのですが、それはやはり、「痛いところにマッサージをする」という共通理解があるからだと思います。
しかし、東洋医学や鍼灸における経絡というものを知っていたら、患部にマッサージをするだけではなく、遠いところにあるツボを刺激するなど、もう少し別のアプローチを加えることが出来たはずだと思います。そもそも、手からビームのようなものが出ているわけではありませんので、患部を抑えても何も変わらないはず。マッサージの効果は、心臓に向かって筋疲労物質を流してあげることによりますが、試合中にやる程度だと、多少筋疲労物質を流すくらいのことで、それは別に擦るくらいでもいいのです。
私個人の意見ですが、錦織圭選手が試合中にしていたマッサージは、治療をしているというよりは、少しでも筋肉を休めるための時間稼ぎのような気がしてなりませんでした。
一流アスリートのトレーナーですら、アプローチは普通。そこにもっと別の視点を加えてみると、もっと大きな効果を得られるはずです。しかし何故そうしないのだろうか?それは、兎にも角にも、“痛いところに施術するのが効果的”、“患部に施術をする方が効く”という、根拠のないイメージによるものだと思います。一般の方だけではなく、施術者もそう思っている方が多いようです。
そうではなく、人間の身体がそもそも持っている経絡という機能を使ってみたらどうかなと思う次第であります。